音声データも、会話の内容や他の情報との照合で特定の人が分かる場合は、個人情報に当たります。診察の録音には、患者さんの氏名や病歴、治療内容が含まれるため、個人情報としての管理を前提に扱います。医療機関が記録作成のために録音する場面を対象に、保存期間の考え方と、保管・削除するときの注意点を解説します。[6]
01診療録の保存期間と録音データの位置づけ
医師法第24条では、診療録を5年間保存することが定められています。この規定を、診察中に作られるすべての録音ファイルに、そのまま当てはめることはできません。録音を診療録等の一部として扱うのか、記録を作るための一時的な資料にするのかで、確認すべき保存の条件が変わります。[1]
例えば、文字起こしの誤りを確かめるために音声を残すなら、照合が終わった後も必要かを検討します。一方、正式な記録の一部として保存するものや、事故調査・紛争対応などで保全が必要なものは、通常の作業用データと一緒に削除しないよう、別の扱いを決めます。
個人情報保護法には、個人情報すべてに共通する保存年数はありません。ただし、利用する必要がなくなった個人データは、遅滞なく消去するよう努めることが求められます。保存期間を決める際は、法令上残す必要のある記録を確保したうえで、元の音声を残す理由が続いているかを見直します。[2]
02音声を残す目的と保存期間
まず、診療情報管理の担当者と、院内に残すデータの用途を揃えます。文字起こしの照合に使う場合と、正式な記録として残す場合では、同じ期間に統一する必要はありません。
| 保存する理由 | 期間と取扱いの考え方 |
|---|---|
| 文字起こしの照合 | 記録を確認するまでに必要な期間を定め、確認後は保存を続ける理由を見直す。 |
| 診療記録の一部 | 記録の種類と位置づけを確認し、適用される法令や院内規程に沿って保存する。 |
| 事故調査等の保全 | 責任者が保全する範囲と理由を記録し、通常の自動削除から外す。解除時期も管理する。 |
| 研修や製品改善への利用 | 診療記録の作成とは目的が変わるため、当初の説明や同意で扱えるかを先に検討する。 |
例えば、照合用の録音を残すなら、確認を終える期限と、期限内に確認できなかった場合の担当者を決めます。単に容量が空いているから残す、いつか役に立つかもしれないから無期限に保存する、という運用は避けたいところです。
03音声データの個人情報への該当性と利用目的
法律上の扱いでは、まず音声に含まれる内容を見ます。患者さんを識別でき、病歴や診療内容を含む録音は、要配慮個人情報に当たり得ます。ファイル名から氏名を消しても、会話の内容や患者番号との対応で本人が分かれば、個人情報としての管理が必要です。[3]
医療機関が録音を保存する際には、何のために取得し、どの範囲で利用するかを明らかにします。個人情報保護委員会の医療・介護ガイダンスは、要配慮個人情報の取得には原則として本人同意が必要であるとし、診療に必要な情報の提供については、状況により同意があると解される場合も説明しています。[3]
ただ、診察を受けることへの同意だけで、会話全体の録音や長期間の保存まで患者さんに伝わっているとは考えにくいでしょう。院内の運用としては、録音前に目的と保存の扱いを説明して許可を得て、希望しない場合の方法も用意しておくのがよいと考えます。説明の文例は、診察を録音するときの患者説明|同意の確認と院内掲示の例で紹介しています。
また、記録作成のために集めた音声を、後から職員研修やAIの学習に使う場合は、当初の利用目的や同意の範囲を改めて確認します。個人情報保護委員会も、生成AIに個人データを入力する際は、応答の出力以外の目的で扱われるか、機械学習に利用されるかを確認するよう注意喚起しています。[4]
04保存中の安全管理とクラウドの利用
音声を残すと決めたら、聞ける人と保存場所を限定します。録音には、文字起こし後の記録には採用しなかった発言や、同席した家族の情報が含まれることもあります。診療録を扱える職員全員に、元の音声も一律に開放する必要があるかは別に検討します。
| 管理する場面 | 具体的に確認すること |
|---|---|
| 再生・ダウンロード | 業務上必要な職員に権限を限定し、誰がアクセスしたかを記録できるか。 |
| 端末と通信 | 認証や暗号化、端末の更新、紛失時の対応。個人用クラウドへの自動保存を防げるか。 |
| クラウドでの処理 | 保存先、提供元と再委託先の閲覧条件、学習・品質改善への利用、障害や漏えい時の連絡。 |
| 期限後の削除 | 端末、サービス、書き出した複製の削除方法。バックアップに残る期間と、復元後の取扱い。 |
クラウドで録音の処理や保存を委託する場合、委託先の選定や監督も医療機関側の仕事になります。利用目的の達成に必要な範囲の委託は、個人情報保護法上の第三者提供と区別されますが、契約書に委託と書けば、提供元が自由に別目的で利用できるわけではありません。保存先や利用目的、再委託の範囲を契約資料で確認します。[3]
厚生労働省の安全管理ガイドラインでは、利用者の認証と権限管理、通信や情報の暗号化、医療情報を破棄する際の対応などを扱っています。画面の削除ボタンを押すだけで全保存先から消えるとは限らないため、バックアップを含めた削除手順を提供元と取り決めます。[5]
保存期間は、こうした管理を続ける期間でもあります。照合のための保存が終わったら、保全対象がないことを確かめて、院内で決めた手順に沿って削除します。契約時に聞く項目は、医療向け音声文字起こしの契約|利用料金と解約条件の確認点も参考にしてください。
05まとめ
診察の録音データは、まず診療録等として残すものと、記録作成のために一時的に使うものを分けます。そのうえで、患者さんへの説明、利用目的、アクセス権限、委託先での取扱いまで含めて保存期間を決めます。音声を聞き直せる利点と、保管を続ける間の管理負担を踏まえ、必要な期間だけ安全に残せる運用を整えましょう。
06よくある質問
患者さんが録音に同意すれば、無期限に保存してよいですか。
同意があっても、何のために保存するかと、利用の必要性を確認する必要があります。必要がなくなった個人データの消去に努めることや、安全管理の責任も残ります。目的に応じた保存期間を決めて運用します。
文字起こしを確認したら、元の音声を削除してよいですか。
照合用の一時データであり、必要な記録が適切に作成・確認され、音声自体を正式な記録や保全対象として残す必要がなければ、院内のルールに沿って削除する運用を検討できます。自動削除を使う場合も、確認途中や保全対象の音声を除外する手順が必要です。
会話を録音する前に相手へ説明して許可を得て、院内の情報管理ルールに沿って利用してください。文字起こしやAIが作成した文章は、担当者が全文を確認して使用します。
